『外張り断熱工法に使える、施工が容易で下地が割れないビスを用意して欲しい』
住宅の快適性や省エネルギー性が注目されるようになった頃、「外張り断熱工法」が急速に普及していました。これは住宅をすっぽり断熱材で囲う工法で、その性能の高さから寒冷地を中心に高い評価を得ていました。しかし、住宅を取り囲む断熱材の外側に外壁を作らなければならず、100~150ミリもの長い釘を使って外壁下地(薄い木材)を留めなければなりませんでした。快適性能を高めるために断熱材はより厚いものが求められていたので、外壁下地作りは困難になる一方でした。そんな時にある断熱材メーカーから「釘の代わりになるビスはありませんか?」という問い合わせが入りました。
建築現場では、太くて長い釘を2,000本も打ち込まなければならず、職人さんからの不満がものすごかったそうです。また、釘が太いので、打ち込む時に外壁材下地の薄い木材が割れてしまうことが多く、割れた木材を交換するなど現場負担はかなり大きいものでした。そのような状況を解消するために、施工が容易で、下地が割れないビスを用意して欲しいという要請でした。
それまで作っていたビスは100ミリくらいが最長で、それ以上は未知の領域でした。まずは工場の技術者と打ち合わせを重ね、長いビスを安定して品質が良く、かつ適切なコストで作る方法を研究していきました。
次に薄い木材を割らない工夫です。外壁下地は厚さ2cmくらいの薄い木材で、とにかく割れやすい材料でした。細い釘ならまだしも、太い釘やビスだと当然のように割れてしまいます。
木工錐の技術を生かした「スプーンカット」と呼ばれる割れ防止のビスがあったので、それを発展させてクリアしようとしたのですが、どうやっても薄い木材は割れてしまいました。しかたなく木工錐の技術を諦め、別のアプローチに切り替えました。
木工錐がダメなら鉄鋼錐が良いのではないかと考え、鉄鋼錐の技術を応用したビスを試作しました。はたして期待通り薄い木材は割れなかったのですが、鉄鋼錐は少しず鉄板に穴をあけていく仕組みなので、とにかく施工に時間がかかってしまいました。ある程度は覚悟していましたが、これでは2つの課題のうち1つしか解決できないので落第です。
木が割れず開発の方向性が正しいという確信を持てたので、木工錐の施工性と鉄鋼錐の切削性のバランスを変えた試作を繰り返した結果、薄い木材でも割れが起きにくく、施工が容易なビスが完成しました。2000年ころの技術ですが、未だにこれを超える技術を見つけるには至っていません。