『厚い合板は釘留めすると下地と一体化してしまい、解体が大変で建材リサイクルに不向き』
木造住宅の高性能化が求められている中で、建物の構造性能を飛躍的に高める材料として厚さが20~30mmの合板が登場しました。構造性能が高まるだけでなく、現場の省力化にも繋がることから、大きく期待される材料でした。一方で、環境意識の高まりから建材のリサイクルが重要視される時期でもありました。厚い合板は構造性能が高い分、釘留めすると下地と一体化してしまい容易に解体できない、建材リサイクルには不向きという弱点がありました。このような状況の中、ある国の研究機関より「厚い合板をビス留めして簡単に取り外せるようにできないだろうか?」という問い合わせが入りました。
これまでビスは木材同士を繋ぐだけで、構造的な効果は全く考えていませんでした。しかし、リサイクルという社会要請に貢献したい、新たな可能性にチャレンジしたい、という思いから開発をスタートさせました。
まず最初の難問が「ビスは折れる」ということでした。ビスはドライバーで回して木材にねじ込んでいくので、ある程度硬くなければなりません。硬いビスは曲がると折れてしまいます。ですが硬いビスは現場の評判も良く、曲がったら折れるのは当たり前のことでした。
ところが、構造的な効果を考えると折れることは致命的な欠点となります。建物が地震などで揺れたとき、ビスが折れてしまったら大変なことになるからです。つまり「硬いけど、曲がっても折れない」という相反する課題を解決しなければならなかったのです
硬くても折れない、これはとても難しい課題でした。なかなか解決の糸口が見つからない中、新聞記事にヒントがありました。ある自動車メーカーがバンパーに特別な鋼材を使うという内容でした。その鋼材は、衝突安全性を高めるため必要な硬さを維持しつつ衝撃が加わったときには変形して衝撃を吸収する、というものでした。ところが、その鋼材は主に自動車用で建築用としては流通していなかったのです。そこで鋼材メーカーに建築業界での課題や今後の見通し、何よりも現場で必要とされていることを説明して、なんとか建築用の供給がOKとなりました。ようやく手に入れた材料でしたが、その後も苦労は続きます。長くなるので別の機会に紹介しますが、初めての材料なので手探りの部分が多く納得のいく成品になるまで3年くらいの月日が必要でした。
ドライバーで簡単に打ち込める、ドライバーを逆回転させれば抜き取りも容易、そして大きく曲がっても折れない、求めていた製品が完成しました。
この開発で得られた知見は、この後に始まるシネジックの構造分野への進出の礎になっています。